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【在宅緩和ケア】①-1 がんの父と娘 【医師が探せない!】

訪問診療が必要な人たちに対する情報がない.

そういう批判をよくいただきます.

ある日,お電話をいただいて,がん患者さんのところにお邪魔しました.

手術もできなくなった,もうすることがないから訪問診療を.そういわれたそうです.

ネットで訪問診療に関してどこがいいのかという情報がなく,いろいろ一生懸命探してわたしがヒットしたとのことです.

お邪魔したら,患者さんはまったく動けなくなっていたのですが,訪問入浴を利用するにも,大げさだ,いやだと嫌がってしまっていました.
ベッドもこの状況にあっていないものでした.

人間って生まれると座る,歩く,ご飯を食べるなど能力を順番に獲得していきますよね.
なのだけど,人生を終えるときというのはこの逆のことがおこります.
昨日までできていたことが,今日は出来ない.
つらい.
誰かに助けてもらってしないといけないことが増える.
そんなに悪くなったのか,と思うと嫌なので,こうしたほうがいいよ,と周囲が言っても
まだ大丈夫だ,といって断ってしまう.

モルヒネを導入するときも,似たようなことを経験します.
麻薬?もう死ぬのか...という麻薬に対する勘違いが根強いのです.
それと同じです.

なので,そういう患者さんの心情を娘さんに説明し,父娘でうまくいかなくてもわたしのほうで介入するので
大丈夫です,とお伝えしました.

高度成長期,父たちは家にいませんでした.
だから意外に父と娘は触れ合わずに来てしまっています.

わたしは急に父を亡くしました.
もっとちゃんと向き合えばよかった.そう思いますが,後悔先に立たず.

なので,父と娘がきちんと向き合って永遠のお別れまでの時間を穏やかで幸せで大切に過ごせるように
演出したい,そういう思いが強いのが私です.
それはまるで,医師である娘なのに,なにもしてあげられなかった父に対する罪滅ぼしのようです.

わたしはこのお嬢さんに,わたしにはそういう私的な感情があるけどいいですか?と言いました.
わたしって,なんでも隠さず正直なんです.

わたしになにか私的な感情が働くと,専門医として適正な判断をできているかどうかについて疑問が生じるかもしれない.
医師を選ぶということ,特に看取るというやり直しがきかない場面をともに歩む医師を選ぶのは難しい.
わたしは,何も隠し立てもせず,いいことも悪いことも言います.
馬鹿が付くくらい正直なんです.

数年,がんと闘病してきて,別々に暮らしていた父と娘は,最期を一緒に過ごすことにしました.
父は娘宅に.
でも,どんどん動けなくなっていく父に不安でたまらない娘.

そんなとき,呼んでいただきました.

娘さんは,お父さんにこういったそうです.
「パパ.きれいな先生が来るよ.」

そしてお父さんは,それまで起き上がらず,ひげもそらなかったのに,突然起き上がってひげをそり
身なりも整えてわたしを迎えてくれたそうです.

でも.それだけで疲れてしまって,動けませんでしたが.

みると,脱水でした.
食べられない,水分摂取も十分でない→脱水→脱水そのもので嘔気や食欲不振がおこる→悪循環
って感じです.
そのうえ,高齢者は腎臓で尿を濃縮する機能が生理的に低下していますので,尿量は意外に多い.
ということで補液で脱水を補正しました.

毎日補液に行って,点滴しながら娘さんとお話をたくさんしました.
それまでどうやって過ごしてきたのか,どういうお考えの人たちなのか,ということがわからないと
個別具体的な最善を考えることができないので,わたしは人生観,宗教観などについて質問するし
質問しなくても普段のこうした会話の中で大事なことは引き出しています.
わたし,あしたからでもFBIの心理捜査官できそうかも~(笑)

そうしてこの超天然ながんの専門医にマルハダカにされ,不安が軽減されると
おちついて向き合う時間が増えていく.
最初の数日,わたしとこの父と娘はそうやって過ごしました.

介護用ベッドも,大丈夫だ,いらない,と言っていたのですが,3日目くらいに,入れましょう~,といったら
受け入れてくれました.

患者さんは毎日わたしにハイタッチしてくれます.

先生が来るだけで元気になる.患者さんってそんなものです.

ところで,この娘さん,お父さんにむかって「きれいな先生が来るからね」と言っていましたよね.(笑)

わたし,研修医のころ,きれいだと言われると,患者さんにこういっていました.
「医師の評価は腕でするものであって,顔ではありません.」
恥ずかしいですね~.腕もない研修医のくせに何言ってるんでしょうかね~.(笑)

5年目くらいになるとこういっていました.
「わたしをほめても薬しか出てこないので危ないです.」

今では,「あら.ありがとう~(*///∇///*)」と言っています.

別に患者さんがわたしに診療してもらいたいという動機が,きれいな先生だから,ということしかなくても
いいじゃないか,と今は思っています.
この先生が好きだ,と思える理由がないとまずは患者さんとの間に人間関係が構築できませんからね.
きれいだだけで終わってしまえば,お水になってしまうのでしょうが.
そこに専門医としてのきちんと裏付けのある技術が伴っていたらいいんじゃないの?

専門医をとって,そう思えるようになったのは大きいですね.わたしにとって.

こうして父娘で終末期を過ごすお手伝いをさせていただいています.

この患者さんは,起きて食卓を囲むようになり,とてもうれしいです.
順番に書いていこうと思います.

娘さんから,こういう情報がなくて,医師を探せなくて困った,と言われたので.

それでは.本日はこれにて.